芦辺拓という作家は名前は知っていたのだが初めて読む。今回手に入れたのは創元推理文庫2006年版(第1刷)。カバー裏面の簡単な説明文を読んでもどんな本かまったくイメージできない。
THE CASTLE OF GRAND GUIGNOL by Taku Ashibe 2001読んでみた。すごく面白かったのだが、他人にこの面白さをぜんぜん上手く説明できそうもない。
1930年代ヨーロッパの古城を買い取ったアメリカ人成金に招待された怪しい面々。アメリカ人富豪親子とその姪、建築技師、弁護士、美術評論家、古美術の専門家、謎の美女、退役軍人、女執事、そして名探偵ナイジェルソープとスコットランドヤードの刑事。
やがて怪しい中国人の出没。嵐の夜、鉄道も道路も電話も寸断。
やがて古城の塔から現所有者のアメリカ人富豪が転落死。
その10年前には前所有者の男爵の息子が11歳の誕生日に城内から行方不明になり死体となって発見されるという事件も発生していた。容疑をかけられた秘書の青年が逃亡、欠席裁判で死刑判決。
さらにその20年前、1900年の義和団事件当時、男爵と関係者が北京に滞在していたという因縁の過去。
これ、最初はディクスン・カー風の本格推理小説風作品なんだろうと思った。
だが、舞台は現代の大阪へ。森江春策という探偵が主人公らしい。
特急電車内で男が不審死。男はなぜか幻のエラリー・クイーン編集の稀覯本雑誌「ミステリー・リーグ」最終号を所持していた。
その最終号に匿名で発表された「グラン・ギニョール城」という未完の作品内世界と現代が交互に出てくる。現実と虚構がクロスオーバー。
やがて森江探偵は和歌山の資産家が山の中に建てた古城風ホテルへとたどりつく…。
この本のイメージを人に伝えようとするとディクスン・カー「火刑法廷」みたいな構造としか説明できない。3分の2までとにかく面白かったのだが、え?!というバカミス展開へ。そのへんのユーモアもカーっぽい。
けどやっぱりこの本はとても新鮮な驚きに満ちた面白い1冊だった。調べてみたら今もわりと人気の話題作だったようだ。
構成が練り上げられているし、劇中に出てくる「グラン・ギニョール城」というカー風推理小説自体も面白い。
高校世界史で習ったはずの義和団事件について初めて理解できた気がする。カスティリオーネ(郎世寧)という偉大な芸術家の存在を今日まで自分はすっかり忘れていた。
芦辺拓という作家、あなどれない。いろいろ知識の量が膨大。文庫版はあとがきも充実。今後この作者の本を探していこうと思う。
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