2018年11月20日火曜日

白石一郎「蒙古の槍」(1987)

白石一郎「蒙古の槍」(文春文庫)を読む。「孤島物語」というサブタイトルがついているので、新潮文庫の「孤島物語」と同一のシリーズなんだろうと予想して読む。
こいつは自分が100円で見つけて友人に買わせたw 何故か奥付が破り取られていて判がわからない。

7本の短編から成る。すべて海と船がテーマ。では順番に読んでいく。

蒙古の槍 肥前鷹島
6年前の蒙古襲来で蒙古兵に幼い孫を惨殺された老人の復讐と闘い。
元寇は日本の政治を揺るがし社会を変えた大事件。おんな子どもも異常に残忍な方法で皆殺しにするという、それまでに日本人が経験したことのない敵が対手。日本側も怒り狂って苛烈に対応。
戦争を描いているので虚しく悲哀だが、老人の思いは遂げられたのでスッキリする。それにしても登場人物がみんな分かりやすい現代語なのでクセがなくて読みやすい。

人名の墓 塩飽諸島(本島)
瀬戸内海の塩飽諸島(現香川県丸亀市)に、人名と呼ばれる農民でも漁民でも町民でもない独自の特権身分を保証された海運操船職能集団(650名)が信長秀吉の時代から幕末まで存在していたということを自分は知らなかった。
人名年寄の地位を取り戻そうと日々懸命に働く男が、下の病のために流浪する大阪新町の女郎を助け出し新生活を始める。爽快感のあるラブロマン。

大阪の廓から外に出たことのなかったヒロインは、塩飽諸島本島の人名年寄の墓の大きさに驚く場面がある。ストビューとか見てみた。確かに位牌みたいな石が立っていてちょっと驚いた。

巨船 答志島
志摩の大名九鬼嘉隆の最期を描く。信長のやり方を真似して伊勢で嫌われまくった九鬼の一族。関ケ原で息子は東軍だったのにきまぐれな嘉隆は西軍に与してしまう。しかも事態の深刻さがわかっていない。信長秀吉との想い出を回想。そして死。

長すぎた夢 小笠原諸島
攘夷に揺れる文久年間、外国奉行水野忠徳にもたらされた情報。島主を名乗る小笠原貞任なる人物の子孫の姉弟の訴え。
小笠原諸島が幕末に日本国に編入されたことは知っていたのだが、英米とこんなかけひきがあったことは知らなかった。ドラマ化希望。面白かったのだがビターなラスト。

三十人目の女 大崎下島
芸予諸島大崎下島の御手洗は江戸時代に全国にその名を知られ、船乗り商人を客とした遊女が町民全体の2割にも達したという。家訓に背いて30人目の女を玉出し屋(女衒)から買った妓楼の若旦那。そして店の崩壊と転落。江戸時代の性産業の実態を描くような短編。松本清張のような嫌な気分になる短編。

鉄砲修行 種子島
近江国友の鉄砲鍛冶職人の流浪の修行の旅。江戸時代の平和はもはや鉄砲を必要としなくなっていたために鉄砲鍛冶の街はすべて寂れていた。江戸時代は技術発展を幕府が禁じていたという最悪な時代。徳川家をヒーローのように描くのはやめろ。
なんだか意外な展開を見せる純文学作品。

献上博多 伯方島
筑前黒田藩の最上級献上品「博多織」の帯のセールスマンが主人公。日本橋を売り歩くも博多織の知名度がまったくなく苦戦。だが、茶屋で知り合った女の伝手から団十郎に芝居で博多織の帯を締めてもらうことで知名度アップ。
だが、すぐに模造品が出回る…。サブタイトルに伯方島とあるが、女の出身地というだけでラストにしか出てこない。ねっとりした男女のエロスがメインの短編。

白石一郎の本を読むのは2冊目だったのだが、やっぱりどれも面白かった。文体が読みやすくわかりやすく、ときにユーモアと濃厚なエロス。

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