未解決事件LOVERにとって、この事件はもうすでに岐阜刑務所に収監中の中村泰が真犯人で実行犯ということで疑問の余地はない。こんなことのできるやつは他にいない。
1995年3月30日早朝にその事件は起こった。警察組織26万人のトップ国松孝次警察庁長官が自宅マンションのエントランス付近で3発の銃弾を浴びて瀕死の重傷を負った事件。警察トップが襲撃されたのは日本近代警察150年の歴史で初めて。
1995年は阪神大震災、オウムの地下鉄サリンテロがあって社会が騒然としていた時代。
平成最後の今年、オウムの一連の事件にかかわった実行犯たち13名の死刑が執行された。このタイミングでNHKは「警察庁長官狙撃事件」を持ってきた。
現政権に首根っこを押さえつけられて別方向に向けるしかないNHKのヤル気を感じられる番組。
今回の番組は原雄一元刑事部中村特命捜査班班長の書いた本(ドラマ部はこの人の本が「原案」とクレジットされていた)、関係者への聴きとり、それと2013年に中村から取材班へ届いた手紙によって構成。
捜査を主導した警視庁公安部は時代の雰囲気からオウムによる犯行と決めつけた。オウム信者だった巡査長Kを長期にわたって取り調べた。犯行に使われた拳銃を神田川に捨てたという供述に基づいて大捜索したものの、結局何も発見できず裏が取れず不起訴。
犯人はホローポイント弾という極めて殺傷能力が高い弾丸を、20mの距離から冷静に3発命中させていた。狙撃のプロにしかできない犯行で、オウムにそんなことができる人物はいなかった。
だが、警察トップは今もオウムの犯行という結論を取り下げていない。オウムの後継団体アーレフから名誉棄損の訴訟を起こされて敗訴してしまうという赤っ恥。警察、なにやってんだよ!国民も呆れる大失態。
当時の公安部の幹部たちが敗者の弁。井上幸彦元警視総監「オウムが対抗的にやってきたのかなと思うのが普通」「みんな一生懸命やってるのだから途中でブレーキをかけられない」、まるで大日本帝国。
内尾武博元公安部長「こんな突拍子も無い事件をオウム意外にやるかな」、米村敏朗元警視総監「オウムの犯行という見方は間違っていなかった。しかし捜査はもっと客観的にやるべきだった」。みんな自身の判断の正当性を主張。
事件現場には目撃者がいたのだが、顔をはっきりと認識できていなかった。なのに捜査報告書が「K巡査長に似ていた」「オウム元幹部に似ていた」と次々と結論に都合よく書き換えられていくのは許せない。こんな都合のいい主張の変化は一般社会でも容認されない。
このへん、まるで下山事件のときの報告書と同じような展開。捜査一課も公安の圧力で捜査の継続も止められる。
警視庁捜査一課は中村泰という人物を調べ始める。この72歳の老人が顔つきからして異常。
このドラマ部の面白さが異常w 原特命捜査班班長を國村隼が、中村泰をイッセー尾形が演じた。
中村泰は獄中でもしっかり体調管理。「プロとして当然。何のプロ?革命家ですけど」この人もひとりでも革命家を主張。
とんでもない量の銃を保持。膨大な知識も披露。それでいて頭脳明晰、記憶力もすごい。強い恨みを抱いて警察組織を嘲笑う。弟(ドキュメンタリー部では本人が顔を出して登場、ドラマでは石丸謙二郎)にも、警察庁長官の殺害をほのめかしていた。
イッセー尾形による犯行の告白と再現シーンは秀逸。今までなんとなくしか知らなかったことを映像化してくれた。
犯行を詳しく自供しことごとく裏が取れていくも、動機と思想が不明瞭。凶器の拳銃が発見されず、いたはずの共犯者の身元も割れなかった。そのために上層部も逮捕には消極的。
事件後に証拠隠滅を謀ったイシグロという人物が警察車両内でとつぜん心臓が止まって死んだ…とされていた。そんなことってある?強いストレス?それは警察の横暴な取り調べでなく?
捜査一課に公安部の捜査員が合流する中村捜査班が初顔合わせのシーン、
公安刑事「個人であんな大それたことやれますかね。ちょっと現実離れしてませんか?」捜査一課若手「そんな思い込みでやってるからダメなんだ!」というののしり合いw
若手であっても自然と組織の雰囲気を代表してしまう。まるで戦争中の陸軍と海軍、皇道派と統制派。組織って怖いw 公安部の刑事が目がイキリすぎていて怖い。まるで青年将校。
この若手刑事が「あれは調べたんスか?こいつは調べたんスか?」とやる気を出していくw おい、いい年したセンパイに「何やってんスか!」はない。自分ならブチ切れる。
さらに上司からも疫病神呼ばわりされる。やってらんない。
そして小日向文世演じる警察幹部の説教。
「その爺さんはもう刑務所から出てくることはないんだ。だったら社会にとって大事なことはなんだ?中村を再逮捕することと、オウムを叩くことと国民にとって大事なのはどっちだ?真実はキミの自己満足のためにあるんじゃない!」こいつがもう帝銀事件の平沢のように、それっぽいヤツが犯人だったら国民にとってはそれでいいという、変わらない警察のメンタリティーを感じた。
小日向の警察幹部の真実というものへの軽さと、中村の耐えがたい軽さが同等に描かれていた。
原班長はロスアンゼルスでかつて交友があったメキシコ移民の母娘に話を訊きにいく。中村の優しい人間性にも触れる。中村とはいったい何者?ますますわからなくなっていく。
中村「私が長官を狙撃したのはオウムの依頼によるものだったということにしてはどうでしょう?公安はメンツが保てるでしょ。みんなハッピーだ。」「九つの真実に一つの嘘が混じって何がおかしいって言いましたけど、あれは逆でしたね。この世の中に9つもホントのことなんかありゃしない。9つの嘘の中に一つの真実があれば十分ですよ。原さん、あんた、みすみすその一つの真実を逃したんですよ」
國村隼「あるんですか?あなたに一つの真実が」ってツッコミに笑った。こりゃ一本とられたって顔のイッセー。とても見応えがあったし面白かった。
NHKによる取材は今も継続中らしい。中村の示す場所で土を掘り返すシーンでドキュメンタリー部は終わる。今後もどんどんこのシリーズをやってほしい。
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