2018年6月4日月曜日

横溝正史「青い外套を着た女」(昭和12年)

横溝正史「青い外套を着た女」の角川文庫(昭和53年初版)を手に入れた。表題作他、8つの短編を収録した1冊。わりとキレイな1冊だが100円でゲット。

すべて昭和10年から13年までの間に大衆文芸誌に掲載されたもの。巻末で解説を書いている中島河太郎氏や角川書店の人々が奔走尽力して集めてきた作品群。すべて40年ぶりに日の目を見た初単行本化作品。

では順番に読んでいく。

白い恋人(オール読物 昭和12年5月増刊に掲載)
これはぶっちゃけ読まなくてもいい短編。男を殺して自殺した女が「先生」に語った内容。夢の話とか聴かされても…。

青い外套を着た女(昭和12年 サンデー毎日)
杉本一文イラストカバーがあまりに恐ろしいので、てっきり猟奇な事件かと思いきや、赤川次郎の中学生向けラブコメミステリーみたいな事件。

颯爽とタキシード姿で銀座を歩くフランス帰りの男。アパートを借りて残った小銭が全財産。知らぬ間にポケットに入っていた紙切れを読むと「日比谷公園の入り口で青い外套を着た女に会いたまえ」と書いてある。よせばいいのに暇だから行ってしまい、無理矢理ヤクザと結婚させられそうになってる女と、一緒に逃げて匿うことになる…という、爽やか青春ドラマw 自分の知ってる横溝正史らしくない展開で笑ってしまった。

クリスマスの酒場(昭和13年)
これも横溝正史らしくない短編。二人の男が横浜の酒場で飲んでいる場面。そこで起こった因縁の事件と意外な結末。とてもオシャレなラブロマンス短編。
スピードワゴン小沢が最後に「メリークリスマス」ってキメ顔で言いそうなクリスマスの夜の小さな奇跡。

木乃伊(ミイラ)の花嫁(昭和13年)
実はこの作品を読みたくてこの本を買った。由利探偵もの。

医学博士の娘と弟子の婚礼の場面。天井から血が滴り落ちて花嫁の衣装に!ヒイィッ!
急いで屋根裏に上がってみると、花嫁に恋慕して恋破れたもう一人の青年の死骸が!
一か月後、長野の湖畔の別荘に白い骸骨のような顔をした男が出没し…という横溝正史らしい怪奇探偵譚。

ぶっちゃけ、読んでいてなんとなくオチの想像はついていた。だが雰囲気はよい。子供は怖がって喜ぶような話だw 古谷一行金田一シリーズでドラマ化もされているらしい。

花嫁富籤(昭和13年)
これも楽しいコメディー。落語には富籤に当たってパニック!というジャンルがあるけどそんな感じ。そっくりそのまま落語にしたらきっと面白い。
失業して暗い気分の若い女性ダンサーが、たまたま行き合った紳士からデパートが顧客に出したクジを貰って「当たったぁ~!」という楽しい話。

仮面舞踏会(オール読物 昭和13年6月増刊)
横溝正史には同名の長編作品もあるがこれはまったくの別物。若い男女の祖父母にまつわる因縁話。昔も今も庶民は上流階級のロマンス話が好きだなあ。

傴僂の樹(昭和13年 サンデー毎日)
バス転落事故に巻き込まれた主人公、同乗し息を引き取った青年から包を預かり、その住所に届ける。とある一家惨殺事件に巻き込まれる…というホラーミステリー。この作品は横溝正史らしさにあふれているのでファンは読むべき短編。

飾窓の中の姫君(昭和13年)
デパートの売り子と男爵令嬢が瓜二つだったことから起こる騒動とコメディー。横溝正史らしくない楽しい1本だが、話の架橋で突然バッサリ終わる感がする。

覗機械倫敦綺譚(のぞきからくりろんどんきだん)(新青年 昭和10年2月増刊)
これは他の作品とはまったく違う雰囲気と文体。なにしろロンドンが舞台で登場人物たちも英吉利人。トム・ガロン作を横溝正史が蓼科三訳として発表。明治大正の黒岩涙香風な講談講釈戯文調。展開が速くて端折った感じがするので翻案かもしれない。

可憐で美しいヒロイン・ブレンダ嬢が無実の罪で監獄に入れられ、周囲の悪いやつらのなすがままに流転していく哀れな展開。社会派サスペンスかもしれない。
ひょっとすると後年の「三つ首塔」に影響を与えた作品かもと思った。

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