2014年10月28日火曜日

吉村昭 「桜田門外ノ変」(1990)


吉村昭の「桜田門外ノ変」(新潮文庫版)を上下巻とも108円で手に入れて読んでみた。いや~、大作だった。

「桜田門外ノ変」というと、大老井伊直弼が桜田門外で水戸浪士に暗殺された事件でしょ、という小学生的知識しか持っていなかった。吉村氏は水戸藩内部の派閥抗争、幕府と水戸藩の対立から事件を描き始める。

世田谷の豪徳寺に井伊直弼の墓がある。そこへ行った時に、暗殺された日本のトップということで少し同情したりした。水戸浪士は幕末の江戸近郊を治安悪化させて庶民から恐れられた存在。

だが、「安政の大獄」のあまりの過酷ぶりに、これは殺されるだろうなと思ったりもした。この単語も小学生知識しかなかったのだが、日本史上最大の思想弾圧事件。独裁者井伊は現場に介入して逆らうものは強引に死罪。公家や大名も処罰。尊皇攘夷という思想は当時の知識人にとっては当たり前の考え方だったのでやり過ぎだ。

暗殺計画は緻密に準備されていた。直接の致命傷は至近距離からの1発の弾丸。事前に射撃テストとかしないで大丈夫かよ?って思ってたけど、腰から大腿部を貫通してほぼ動けなくなってしまっていた駕籠の中の井伊。刀が差し込まれあっというまに絶命。首を切断。現場には切り込んだ側と護衛側の乱闘斬り合い後に、切り落とされた指やら耳やらが散らばる凄惨な現場だったという……。事件当日のこともすごく詳しい。

日記が多く残されているということで、水戸藩士・関鉄之助という30代半ばで、事件現場で襲撃側の指揮をした人物を主人公に、完全に水戸側からの視点で事件を描く。

事件後の潜伏と逃避行が下巻のほとんど。長い。だが、江戸の昔から日本は警察国家。全国隅々まで捜査の目が張り巡らされていて、やがて全員逮捕。庄屋などの協力者の家々を転々と逃亡の末に逮捕、処刑。実に細かく立ち寄った場所と潜伏先も描かれているし、逃走中の主人公が糖尿病であったことも吉村氏は調べ上げていた。

水戸脱藩の17名、薩摩脱藩の1名の実行犯18名中、事件現場で切り殺された者が1名、重傷を負って現場で自刃が4名、重傷でその後死亡が3名、死罪が7名、逃亡の末に自刃が1名。だが、実行犯のうち2名だけ明治維新後まで生き延びた…ということもこの本を読んで知った。

吉村昭の取材の緻密さがすごい。この本も満足度が高かった。

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