大正13年に盛岡の杜陵出版部と東京巣鴨の東京光原社によって出版された「注文の多い料理店」は1000部しか刷られていない幻の本だが、近代文学館とほるぷ社によるこのシリーズのおかげで、誰でも初版本を味わうことができる。
自分が手に入れたものは昭和52年の第16刷。ほとんど読まれた跡がないキレイな本。
この手の本で読むの、初めて!何だかワクワク。Kindleとかじゃ味わえないこの感じ。誤字とか印刷のズレとか抜け落ちた活字とかそのまんま。
「定價金壹圓六拾銭」とわりと高価だったためにほとんど売れなかったという……。宮沢賢治の生前に出版された本はこれと「春と修羅」だけ。
「はいらうぢやないか。ぼくはもう何か喰べたくて倒れさうなんだ。」子供向けの童話なので、難しいことはない。現代と違う仮名遣いになれていればスラスラとあっというまに読める。
「このなかでいちばんばかで、めちやくちやで、まるでなつてゐないやうなのが、いちばんえらい」
- 「どんぐりと山猫」 この本の収録作の中では一番シュールで面白いと感じた。少年はムラカミハルキ作品の主人公みたいなスカした感じだけど。賢治は訴訟を憎んでいた。
- 「狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)」 これは岩手の民話か?人間と自然の係わり合いの宮沢賢治哲学を垣間見る。
- 「注文の多い料理店」 自分はこの話に昔から疑問を持っている。そのオチって面白い?賢治の代表作。語り口は見事。都会のブルジョワ野郎への嫌悪感で満ちている。
- 「烏の北斗七星」 賢治も軍隊経験があった?この時代の子どもたちなら誰でも軍隊ごっこしたんだろう。カラスの群れに軍隊を見て賢治が空想した軍事色の濃い童話。
- 「水仙月の四日」 東北の人々が昔から雪山に抱いていたイメージ?
- 「山男の四月」 賢治の支那人へのイメージ?
- 「かしはばやしの夜」 童話と云うより詩だな。
- 「月夜のでんしんばしら」 挿絵の踊る電信柱の絵はどこかで見たことある。
- 「鹿踊りのはじまり」 手ぬぐいを置き忘れて戻ってみると、そこには鹿が……。
童話なので子ども向け作品だが、大人になってからでないと分からないことだらけだった。自分は一昨年初めて岩手花巻を旅した。宮沢賢治先生の住んでいた家にも行った。記念館にも。イギリス海岸にも。
東北を旅して遠くの雪の山を眺めたり、キャンプをして夜の森の様子を実際に見たりしてからでないとイメージできないことが多いことに気がついた。大人になってやっと宮沢賢治と対話ができている感じだ。
「かれ草のところどころにやさしく咲いたむらさきいろのかたくりの花もゆれました。」自分が「かたくりの花」を実際に初めて見たのは、大人になって山を歩くようになってからだった。
この本で一番価値があるのは宮沢賢治の「序文」だと思う。
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。で始まるこの文章を読むだけで宮沢賢治の人となりがわかる。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびらうどや羅紗や、寶石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました。
わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鐡道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。
「菊池武雄挿畫装順」って表紙に書いてある。この人は盛岡の図画教師だったアマチュアらしい。「かしはばやしの夜」の「赤いトルコ帽の畫かき」のイラストはこれで合ってる?ちょっと疑問。
SECRET: 0
返信削除PASS:
文学全集というものが、流行らなくなって、いわゆる定番の名作も文庫から消えて。
いまや、作家で纏まったものをまともに読めるのは漱石、太宰、賢治、鏡花ぐらいですね。
詩集「春と修羅」と童話集「注文の多い料理店」の他に、「グスコーブドリの伝記」や「雪渡り」などの雑誌や地方新聞に発表したものがあります。でも膨大な作品は皆、死後に知られるようになったものばかり。
童話は賢治の世界観の集大成です。「銀河鉄道の夜」も「ポラーノの広場」も、未完成なのに奇跡のように美しい。決して、子供限定の読み物ではないですよ。詩も童話も、読むたびに新しい発見があり、その大きさに打ちのめされます。
「注文の多い料理店」の童話群は、破綻はないけれど、出版を意識したのか地方色が強く、固い作品ばかり。むしろ未発表だった作品群の方が人気があるし、真価があると思っています。「注文の多い料理店」では「水仙月の四日」が好きです。この作品は賢治全体の中でも評価が高いようです。
あと、「わたしという現象は 仮定された有機交流電燈の ひとつの青い照明です」
で始まる、「春と修羅」の序文もまた、賢治の最高傑作のひとつかな。
SECRET: 0
返信削除PASS:
実は、宮沢賢治ってほとんど読んだことなかった。一昨年、花巻の記念館を訪れてから読もうと思ってた。この人は今ならギター持って自作の歌をうたってたと思う。春と修羅もいつかよみたい。