この本も長年そこにあって目に入っていたのだが、ようやく読んでみた。三崎亜記「となり町戦争」の2006年刊の文庫版。
戦争というものがまったく新しい切り口で展開する。読んだことのないタイプの本。戦争という非日常が、一般人の目に触れない場所で、行政として粛々と遂行されていく日常。ほとんどの人は普通の生活をしながら、役場の戦争推進課とコンサルティング会社だけが戦争をしている。
予算の執行だとか議会の承認だとか「行政」で使われるそれらしい言葉をちりばめながら。文学的表現を混ぜ込みながら。なんだか村上春樹っぽい。「心の痛み」とか「戦争のリアル」とか。面白そうなのに、なかなか面白く展開していかない。
戦争とはいっても戦闘シーンが皆無。ただ、「戦死者数」情報だけが開示されていく。そこにある悲惨な「死」がまったく見えてこない怖さがある。
敵地である隣町に「潜入」した主人公と、行政を代表する謎の女性「香西さん」との戦争の日々。どちらかというとスパイ小説に近いかもしれない。なにも活動してないけど。
オチに期待しながら読んだけど、結局、「で?」って。戦争への問題定義として考えさせられるものはあるけど、結局、読み通したところでそれほど面白くなかった。だが、着眼点は新しい。著者は公務員というものをよく観察したようだ。役所の人間と仕事をしたことがあるのかも。
文庫版には新たに書き下ろされた「別章」が書き加えられたが、ここは読まなくてもいいと感じた。主人公が「香西さん」の弟の学生時代の恋人だとわかるまで、主人公は同性愛者だったのか?と混乱してしまった。
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三崎亜記は「となり町戦争」か「バスジャック」のどっちか買ったはずですが、読まずに埋もれて久しい。この人は何回も直木賞候補になっていますが、華々しい雰囲気も、評判になっていたような記憶も無い。なのにずいぶん持ち上げられているような印象。よっぽど文章が上手いんでしょうか?
日常の裏側のわからんところで勝手に戦争が進行している・・・というのは、古くからSFではごくごくありふれたテーマで、デイックや筒井康隆や最近では北野勇作「かめくん」などを思い出しました。ブロガーさんの感想読むと、無理して掘り出す必要はなさそうだな。
「主人公が香西さんの弟の学生時代の恋人だとわかるまで」というブロガーさんの表現は、
「別章」の主人公と本編の主人公が別人という理解でOKですか?
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一般的サラリーマン主観で書かれてる。別章になると女性目線に変わってる。
戦争が見えないところで進んでいるって、アフガンやイラクを経験したアメリカ人にはフツーなことかなって想いながら読んでた。
公務員VS.一般人ってのもテーマかも。